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短期前払費用の特例とは?要件・対象となる費用・会計処理・税務調査で否認されるケースを税理士が解説

Relyne(リライン)会計事務所の永野です。

家賃や保険料などを1年分前払いしたとき、その全額を支払った期の損金(経費)にできるのが「短期前払費用の特例」です。決算前の節税策としてよく使われる一方で、対象となる費用の範囲や支払時期には細かなルールがあります。

本記事では、短期前払費用の特例の要件、対象となる費用、節税効果、会計処理、税務調査で否認されるケースと対策を公認会計士・税理士が解説します。

1. 短期前払費用の特例とは

1-1 概要

前払費用とは、契約に基づいて継続的に役務(サービス)の提供を受けるために支払った費用のうち、事業年度末の時点でまだ提供を受けていない期間に相当する部分をいいます。
家賃、保険料、SaaS利用料などを翌期分まで前払いした場合の、翌期分がこれに該当します。

法人税の計算では、前払費用は支払った時点では損金にならず、いったん資産(前払費用)に計上し、サービスの提供を受けた事業年度に損金にします。例えば、3月決算の会社が3月に翌期1年分の料金を支払った場合、その全額は翌期の損金になり、支払った期の損金にはなりません。

この取扱いの例外が短期前払費用の特例です。
支払った日から1年以内に役務の提供を受ける前払費用を、毎期継続して支払時の損金にしている場合には、支払った事業年度の損金にすることが認められています(法人税基本通達2-2-14)。
これにより、3月に翌期1年分を支払えば、その全額を支払った期の損金にすることができます。

この特例は、企業会計の「重要性の原則」(金額や性質が重要でないものは簡便な処理でよいという考え方)に基づく経理処理を税務でも認めたものです。
そのため、利益操作を目的とした恣意的な処理を認めているわけではありません。

参考:国税庁|No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合
参考:国税庁|短期前払費用の取扱いについて(質疑応答事例)
短期前払費用の特例とは

1-2 適用要件

短期前払費用の特例を適用するには、次の5つの要件をすべて満たす必要があります。

要件 内容
① 契約に基づく支払いであること 年払いなどの支払方法が契約書で定められていること
月払い契約のまま自社の都合で1年分を支払っても対象外
② 継続的なサービスの提供を受けるための費用であること 時の経過とともに提供を受けるサービスの対価であること
物品の購入代金や単発のサービスは対象外
③ 毎月同じ内容・同じ量のサービスであること 期間中いつでも同じ内容のサービスを受けるもの
月ごとに業務内容や作業量が変わるものは対象外
④ 支払日から1年以内にサービスの提供を受けること 支払日から数えて1年を超える期間分が含まれていると、
その部分だけでなく全額が対象外
⑤ 毎期継続して支払時に損金にしていること 利益が出た年は適用し、赤字の年は資産計上する
といった使い分けは認められない

①〜③は「前払費用」に当たるかどうか、④⑤は「短期前払費用の特例」を使うための要件です。

なお、収益と対応させる必要がある費用(借入金を預金や有価証券で運用している場合の支払利息など)は、1年以内の前払いであっても特例の対象外です(法人税基本通達2-2-14注書き)。

参考:国税庁|法人税基本通達 第2款 販売費及び一般管理費等(2-2-14 短期の前払費用)

「支払日から1年以内」の判定

④の「1年以内」はサービスの提供期間ではなく、支払日を起点に判断します
国税庁の質疑応答事例では、3月決算の会社が4月から翌年3月までの家賃・リース料1年分を支払うケースについて、次のように判断が分かれています。

支払日 サービスの提供期間 判定
3月末
3月下旬
4月〜翌年3月 適用できる
2月 4月〜翌年3月 適用できない
(翌年3月分が支払日から1年を超えるため)

3月末に支払う賃料の年払いや3月下旬に支払うリース料の年払いを認めている一方で、2月に支払うケースは翌年3月分が支払日から1年を超えるとして認めていません。
契約上の支払期日がサービス提供開始の前月より前になっている場合は、そのままでは特例を使うことができないため、支払先と交渉して支払期日を変更するか、通常どおり前払費用として資産計上し、サービスの提供を受ける事業年度の損金にします。

参考:国税庁|短期前払費用の取扱いについて(質疑応答事例)
「支払日から1年以内」の判定

1-3 対象となる費用・ならない費用

特例の対象になるのは「継続的に、同じ内容のサービスを受けるための費用」です。
よくある支払いを分類すると次のとおりです。

費用 特例の適用 理由
事務所・店舗・駐車場の家賃、地代 継続的で毎月同じ内容のサービス
サーバー・クラウドサービス・業務ソフトの年額利用料 固定料金のプランに限る
(従量課金の部分は対象外)
オフィス機器・車両のリース料、レンタル料 継続的で毎月同じ内容のサービス
火災保険・自動車保険・賠償責任保険などの損害保険料 1年分ずつ支払う契約に限る
(複数年分の一括支払いは対象外)
商工会議所や業界団体の年会費 別の取扱い(法人税基本通達9-7-15の3)により支払時に損金にできる
借入金の支払利息 借入金を預金や有価証券の運用に充てている場合は対象外
生命保険料 年払い保険料が全額損金になる保険に限る
(解約返戻金があり一部を資産計上する保険は対象外)
新聞・雑誌の購読料 電子版は対象
紙は物の購入に当たるため対象外
税理士・弁護士・社会保険労務士などの顧問料 月ごとに業務の内容や量が異なる
コンサルティング料、都度の作業量で決まる保守料 月ごとに業務の内容や量が異なる
商品・材料の仕入代金
備品の購入代金
物の購入であり「前払金」に当たる
広告の出稿料、展示会の出展料 単発の支払いで、継続的なサービスでない
役員社宅の家賃 役員から受け取る社宅使用料と対応させる必要がある
礼金・更新料 前払費用ではなく繰延資産に当たる

顧問料や保守料は「毎月定額」であっても、月ごとに提供を受ける業務の内容や量が異なるため、対象になりません。金額が定額かどうかではなく、中身が毎月同じかどうかで判定します。

生命保険料は、その保険の年払い保険料が全額損金になるものに限って対象です。
解約返戻金があり保険料の一部を資産計上する保険(最高解約返戻率が50%を超える定期保険など)は、資産計上のルールが優先されます。

1-4 節税効果と資金繰りへの影響

短期前払費用の特例で節税になるのは、月払いから年払いに切り替えた年の1回だけです。

3月決算の会社が、月額10万円(年額120万円)のSaaS利用料を、今期から年払いに切り替えた場合で比較します。

切替年(今期) 翌期以降
4月〜3月の月払い分 120万円
3月に支払う翌期1年分 120万円 120万円
損金になる金額 240万円 120万円

切替年は2年分の240万円が損金になり、法人税等の実効税率を30%とすると税金は約36万円減ります。しかし翌期以降は毎年120万円で、月払いのときと変わりません。月払いに戻した年は、逆に損金が1年分減ります(前期に翌期分を払い終えているため)。
つまり、この特例は節税というより翌期分の損金を今期に前倒しする「課税の繰延べ」です。

資金面では、年払いにすると12か月分を一度に支払うことになります。上の例では3月に120万円の支払いが決算月に発生します。切替年の税金の減少額(約36万円)より支払額の方が大きいため、手元資金に余裕がない状態で節税のために年払いに切り替えることはおすすめしません

一方で、年払いにすると毎月の支払処理や前払費用の月割り計算が不要になるため、経理の手間は減ります。すでに年払い契約になっている損害保険料や年額プランのクラウドサービスについては、この特例を使って支払時に全額費用にしておくと処理が簡単になります。

2. 会計処理

3月決算の会社が、3月25日にSaaS利用料の年額プラン(4月〜翌年3月分)120万円(税抜)を支払った場合の仕訳を、通常の処理と特例を使う場合で比較します。
(2-1・2-2・2-3は説明を簡単にするため消費税を省略しています)

2-1 通常の処理

支払時に「前払費用」(資産)として計上し、サービスの提供を受ける度に費用へ振り替えます。

支払時(3月25日)

借方 金額 貸方 金額
前払費用 1,200,000円 普通預金 1,200,000円

翌期の各月末(4月〜翌年3月の12回)

借方 金額 貸方 金額
通信費 100,000円 前払費用 100,000円

今期の決算書には前払費用120万円が資産として残り、今期に損金となるのは0円です。

なお、年度の途中で支払った場合は、当期分と翌期分に分けます。たとえば10月に10月〜翌年9月分の120万円を支払った場合、10月〜3月の6か月分60万円は今期の通信費、4月〜9月の6か月分60万円は前払費用として翌期に繰り越します。

2-2 短期前払費用の特例を使う場合

支払時に全額を費用にします。決算での振替えは不要です。

支払時(3月25日)

借方 金額 貸方 金額
通信費 1,200,000円 普通預金 1,200,000円

年度の途中で支払った場合も同じです。10月に10月〜翌年9月分を支払った場合、翌期分の6か月分を含めた120万円全額が今期の通信費になります。

特例の適用に税務署への届出や申請は不要で、この処理を毎期続けていれば問題ありません。
ただし、年払いであることが分かる契約書と、支払日が分かる振込記録・請求書を保存しておきましょう。税務調査では、契約内容と支払日の両方を確認されます。

2-3 中途解約で返金を受けた場合

期の途中で解約して未経過分の返金を受けた場合は、返金額を受け取った事業年度の雑収入に計上します。支払時に全額を損金としているためです。

2-2で、翌期9月末に解約し10月〜翌年3月分の60万円が返金された場合の仕訳は次のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
普通預金 600,000円 雑収入 600,000円

なお、貸方は通信費(費用のマイナス)でも問題ありません。
雑収入と通信費のどちらでも利益と税金の計算結果は同じになります。

2-4 消費税の取扱い

短期前払費用の特例を適用した費用は、消費税でも支払った日の属する課税期間の課税仕入れとして、仕入税額控除を受けることができます(消費税法基本通達11-3-8)。

税抜経理の場合、2-2の仕訳は次のようになります。

借方 金額 貸方 金額
通信費 1,200,000円 普通預金 1,320,000円
仮払消費税 120,000円

仕入税額控除を受けるには、1年分の金額が記載されたインボイス(適格請求書)の保存が必要です。年払いの請求書がインボイスの記載事項を満たしているかを確認しましょう。
支払先が免税事業者などでインボイスがない場合は、支払日時点の経過措置の割合(令和8年9月30日までは80%、同年10月1日からは70%、以降段階的に縮小)を1年分全額に適用します。

参考:国税庁|消費税法基本通達 第3節 課税仕入れ等の時期(11-3-8 短期前払費用)
参考:国税庁|消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(問98 短期前払費用)

インボイス制度については「インボイス制度とは?仕組み・登録の判断・売り手と買い手それぞれの対応を税理士が解説」をご参照ください。

3. 税務調査で否認されるケースと対策

税務調査では、年払いにした費用について、契約書の定め、支払日、サービスの提供期間、毎期の処理の継続性を確認されます。要件を満たしていないと判断されると、支払った全額が当期の損金として認められず、法人税等の追徴に加えて過少申告加算税と延滞税がかかります。
(否認された前払費用そのものは、サービスの提供を受けた事業年度の損金になります)

3-1 否認される6つのケース

否認される典型的なケースは次のとおりです。

否認される理由と正しい対応
① 月払い契約のまま1年分を支払った 契約に基づく支払いではないため対象外
年払いに変更する契約書や覚書を締結してから支払う
② 支払日から1年を超える期間分が含まれている 2月に4月〜翌年3月分を支払った場合、翌年3月分が1年を超えるため全額が対象外
支払日をサービス開始の前月以降に設定する
③ 1年を超える期間分を支払った 1年を超える期間分を支払った場合、1年分だけを切り出して損金にすることはできない
年払い(12か月分)の契約にする
④ 顧問料や広告出稿料を年払いにした 毎月同じ内容・同じ量のサービスではないため対象外
月ごとに費用計上する
⑤ 利益が出た年だけ年払いにした 継続適用の要件を満たさず、利益操作と判断される
一度年払いにしたら翌期以降も同じ処理を続ける
⑥ 支払額が会社の利益や規模に比べて大きすぎる 重要性の原則の範囲を超えるため対象外
金額が大きいものは、通常通り前払費用として計上し、サービスの提供ごとに費用へ振り替える

⑥について、明確な金額基準はありません。この特例は「金額的に重要でない費用を簡便に処理してよい」という考え方に基づくものなので、年払いの金額が年間の利益と同じ規模になるようなケースでは、重要でない費用とはいえないでしょう。

3-2 否認されないための対策

契約書・覚書を先に作る

月払い契約を年払いに変える場合は、支払前に契約書の変更または覚書の締結が必要です。家賃であれば貸主または管理会社と交渉し、「賃料は毎年3月末日までに翌年4月分から翌々年3月分までを一括して支払う」といった条項を書面に残します。メールでのやり取りであれば、貸主の承諾と変更日が分かる形で残しておきましょう。クラウドサービスなどの年額プランは、申込画面や利用規約に年払いの条件が記載されているため、申込内容の控えと請求書を保存しておきましょう。

決算日までに支払いを終わらせる

決算月に翌期分を支払う場合は、決算日までに振込みを完了させましょう
支払いが遅れて決算日を過ぎると、今期の損金にはできません(翌期の損金になる)。

翌期以降も同じ処理を続ける

一度年払いにしたら、翌期以降も年払いと支払時に損金にする処理を続けましょう
利益の状況に応じて年払いと月払いを選択すると、利益操作と判断されてしまいます。
なお、契約の更新や事務所の移転など、支払方法が変わる合理的な理由があって月払いに戻すことは問題ありません。

4. Q&A

Q1. 特例を使うために、税務署への届出は必要ですか?

A. 税務署への届出や申請は不要です。

Q2. 決算月に年払い契約に変更してすぐ支払っても認められますか?

A. 契約変更が支払前に完了していれば認められます。
ただし、決算直前の切替えは利益操作を疑われやすいため、変更の記録を残すとともに、翌期以降も同様の処理を継続するようにしましょう。

Q3. 13か月分をまとめて支払いました。12か月分だけ損金にできますか?

A. できません。
支払日から1年を超える期間分が含まれている場合は、全額が特例の対象外になります。
そのため、通常通り前払費用として資産計上したうえで、サービスの提供ごとに費用に振り替えることになります。

Q4. 従量課金のSaaSを年額プランにしました。特例の対象ですか?

A. 固定料金の年額プランであれば対象です。
利用量にかかわらず毎月同じ内容のサービスを受ける契約であれば、「毎月同じ内容・同じ量」の要件を満たします。一方、月ごとの利用量で料金が変わる従量課金部分は対象外です。年額プランに従量課金の追加料金が加わる場合は、固定部分だけを特例の対象にしましょう。

Q5. 年払いの損害保険料を、支払った月に全額費用にしています。問題ありませんか?

A. 問題ありません。
火災保険や自動車保険の1年契約の保険料は、年払い契約に基づく継続的で同じ内容のサービスの対価であり、支払日から1年以内に保険期間が終わるため、特例の要件を満たします。
多くの会社が意識せずに行っているこの処理は、短期前払費用の特例を適用した処理です。
ただし、保険期間が複数年の契約で一括払いした場合は対象外なので、期間按分が必要です。

5. まとめ

短期前払費用の特例について、要件、対象となる費用、節税効果、会計処理、税務調査で否認されるケースと対策を解説しました。ポイントは次のとおりです。

  • 短期前払費用の特例は、支払日から1年以内にサービスの提供を受ける前払費用を、支払った事業年度の損金にできる取扱い
  • 対象となる費用は契約に基づいて支払う、毎月同じ内容の継続的なサービス
  • 税金が減るのは年払いに切り替えた年の1回だけで、実態は課税の繰延べ
  • 一度適用したら、翌期以降も継続して適用する必要がある
    利益操作として活用することは認められない

当事務所では、日々の経理処理のチェックから決算・税務申告、税務調査の対応まで、法人の税務をサポートしています。初回無料相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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Relyne会計事務所 代表 永野隆丞

この記事を書いた人

永野 隆丞(公認会計士・税理士)

日本公認会計士協会 東京会 46468号/東京税理士会 157067号

Relyne(リライン)会計事務所 代表。
有限責任監査法人トーマツ、ミネベアミツミ株式会社での監査・経理実務を経て、東京都千代田区で開業しました。クラウド会計freeeを活用した創業期の会社のサポートを強みとしています。ブログ記事は顧問先様に実際に説明するときにも活用しており、会計や税金に初めて触れる方でも分かりやすい内容を心がけています。趣味はサッカー観戦・野球・将棋です。

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