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手元流動性比率とは?計算方法・目安・改善方法を公認会計士・税理士が解説

Relyne(リライン)会計事務所の永野です。

手元流動性比率は、現預金が月商の何ヶ月分あるかを示す指標で、会社の資金繰りにどれだけ余裕があるかを表します。会社が倒産するのは、赤字になったときではなく、手元の資金が尽きて支払いができなくなったときです。したがって、銀行も資金繰りの安全度を測るために、この指標を活用しています。

本記事では、手元流動性比率の計算方法・目安・改善方法を公認会計士・税理士が解説します。

1. 手元流動性比率とは

1-1 現預金が月商の何ヶ月分あるかを示す指標

手元流動性比率とは、手元流動性が月商の何ヶ月分あるかを示す指標です。現預金月商比率とも呼ばれます。

手元流動性とは、現預金とすぐに換金できる有価証券の合計、つまりすぐに支払いに充てることができる資産のことです。多くの中小企業では有価証券を保有していないため、手元流動性 = 現預金と考えて問題ありません。

この指標が示すのは、会社の短期的な支払能力です。手元流動性比率が2ヶ月であれば、売上の入金が2ヶ月止まっても、手元の資金で支払いを続けることができます。

会社は赤字が続いても、手元の現預金で支払いを続けることができる間は倒産しません。逆に、利益が出ていても、現預金が尽きて支払いができなくなれば倒産します。これが黒字倒産です。

黒字倒産については「黒字倒産とは?原因と対策を公認会計士・税理士が解説」をご参照ください。

1-2 手元流動性比率の計算方法

手元流動性比率は、次の計算式で求めます。

手元流動性比率(ヶ月)= 現預金 ÷ 月商(年間売上高 ÷ 12)

使う数字は、貸借対照表の「現金及び預金」と、損益計算書の「売上高」の2つです。
決算書が手元にあれば、その場で計算することができます。

たとえば、次のような会社を考えます。

  • 現金及び預金:1,800万円
  • 年間売上高:1億2,000万円(月商1,000万円)

この場合の手元流動性比率は、1,800万円 ÷ 1,000万円 = 1.8ヶ月です。

なお、月商は決算書の年間売上高を12で割って求めるのが一般的ですが、売上が急拡大している会社や季節変動の大きい会社では、直近数ヶ月の平均月商で計算したほうが実態に合います。前期の売上をもとにした月商では、今の事業規模に対する支払能力を見誤る可能性があるためです。

1-3 流動比率・当座比率との違い

会社の短期的な支払能力を測る指標には、手元流動性比率のほかに流動比率と当座比率があります。3つの指標の違いは、分子に「どこまで換金しやすい資産を含めるか」です。

指標 計算式 分子に含める資産
手元流動性比率 現預金 ÷ 月商 現預金のみ
当座比率 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 現預金 + 受取手形・売掛金など
流動比率 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 当座資産 + 棚卸資産(在庫)など

流動比率は在庫を含み、当座比率は売掛金を含みます。しかし、在庫は売れるまでお金になりませんし、売掛金は取引先の入金が遅れれば手元に届きません。今すぐの支払いに使うことができるのは現預金だけです。手元流動性比率は、分子をすぐに支払いに充てることができる資産に絞ることで、3つの指標の中で最も厳しく支払能力を測る指標になっています。

また、当座比率・流動比率が「1年以内に支払う負債(流動負債)」と比べるのに対して、手元流動性比率は「月商」と比べる点も違いです。月数で結果が出るため、あと何ヶ月持ちこたえることができるかを直感的につかむことができます。

1-4 融資の審査で重視される理由

銀行は、決算書の財務指標をスコアリングして財務格付を行い、その結果をもとに債務者区分(正常先・要注意先など)を決めています。格付への影響が特に大きいのは自己資本比率と債務償還年数の2つですが、手元流動性比率も、資金繰りの安全度を示す指標としてスコアリングの結果を左右します。

銀行がこの比率を見るのは、貸したお金の返済が毎月の預金残高から行われるためです。現預金が月商1ヶ月分を切っているような会社は、取引先の入金が少し遅れただけで返済が滞るリスクを抱えています。逆に、現預金を月商2ヶ月分以上確保している会社は、多少の入金遅れや売上の変動があっても返済を続けることができるため、銀行は安心して融資することができます。

格付と債務者区分、自己資本比率、債務償還年数については、以下記事で詳しく解説しています。
債務者区分とは?正常先〜破綻先の違いと資金調達への影響を公認会計士・税理士が解説
自己資本比率の目安は?業種別平均・計算方法・高める方法を公認会計士・税理士が解説
債務償還年数とは?計算方法・目安・改善方法を公認会計士・税理士が解説

2. 手元流動性比率の目安

2-1 目標は2ヶ月以上

銀行融資の観点からみた手元流動性比率の水準は、次のとおりです。

手元流動性比率 評価
2ヶ月以上 良好な水準
資金繰りが安定していると評価される
1.5ヶ月から2ヶ月未満 問題のない水準
1ヶ月から1.5ヶ月未満 向上が求められる水準
1ヶ月未満 問題のある水準
入金の遅れや急な支払いで資金ショートを起こすリスクが高い

目標にすべき水準は、2ヶ月以上です。

一般に、大企業なら1ヶ月、中小企業なら1.5ヶ月あれば安全といわれることがあります。しかし、この水準はあくまで最低ラインです。大企業が1ヶ月で足りるのは、いざというときに社債の発行や大型の融資枠ですぐに資金を調達できるためで、中小企業には同じ調達力がありません。中小企業は、毎月の借入返済の負担が売上規模に対して大きく、預金が減りやすいという事情もあります。売上の急減や取引先の入金遅れが起きてから調達に動いても間に合わないため、平時から月商2ヶ月分の現預金を確保しておきましょう。

先ほどの計算例の会社(月商1,000万円・現預金1,800万円・手元流動性比率1.8ヶ月)であれば、問題のない水準ではあるものの、現預金をあと200万円増やして、月商2ヶ月分の2,000万円を確保することが当面の目標になります。

2-2 業種による違い

必要な手元流動性の水準は、入金と支払いのタイミングによって業種ごとに差があります。

建設業や受注生産の製造業のように、代金の入金までに時間がかかる業種は、その間の材料費・外注費・人件費を手元の資金で立て替え続けることになります。立て替えの負担が大きい分、現預金は基準となる月商2ヶ月分より厚めに確保する必要があります。

一方、飲食業や小売業のように売上がすぐ現金で入る業種は、日々の入金で支払いを回すことができるため、比率が低くても事業は回ります。ただし、こうした業種は客足が止まると売上が一気に消える一方、家賃や人件費の支払いは続きます。売上が急減したときに固定費を払い続けるための備えとして、現金商売の業種であっても月商2ヶ月分の確保をおすすめします。

2-3 高ければ高いほど良いというわけではない

手元流動性比率は高いほど資金繰りは安定しますが、比率の高さだけを目的にすると判断を誤ってしまいます。

まず、借入を増やして預金を積み上げても、銀行の評価は上がりません。手元流動性比率は改善しますが、借入が増える分、自己資本比率と債務償還年数が悪化し、格付全体ではマイナスに働くためです。かといって、借入を減らすために預金を返済に回し尽くすと、支払能力そのものを失い、評価はさらに下がります。借入と預金のバランスを取りながら、2ヶ月以上の水準を保つことが、資金繰りと格付の両面で合理的です。

また、現預金が月商3ヶ月分を大きく超えて積み上がっている会社は、その資金を設備投資や人材採用などの成長投資に回すことも検討しましょう。預金は持っているだけでは利益を生みません。ただし、中小企業で問題になるのは、資金の持ちすぎよりも不足のほうが圧倒的に多いです。資金効率を考えるのは、2ヶ月以上の水準を安定して確保できるようになってからで十分です。

3. 手元流動性比率を改善する方法

手元流動性比率の計算式は「現預金 ÷ 月商」なので、比率を改善するには、分子の現預金を増やすことが必要になります(分母の月商を減らすのは本末転倒です)。
現預金を増やす具体的な方法は、次の5つです。

3-1 利益を出して現預金を蓄積する

現預金を増やす方法の中心は、毎期の利益を積み上げることです。値上げや原価・経費の見直しで利益体質に改善できれば、稼いだ利益が現預金として手元に残っていきます。

一方、保険や不要な資産の購入で利益を圧縮すると、税負担は減りますが、支払った分だけ現預金も減ります。法人税等の実効税率はおよそ3割なので、100万円の経費を使って減る税金は約30万円です。つまり、税金を30万円減らすために現預金を70万円失う計算になります。手元流動性を厚くしたい会社は、利益を出して税金を払い、残りを預金として蓄積するほうが資金繰りは安定します。

3-2 運転資金を短期継続融資で調達する

売掛金や在庫として立て替えている運転資金の分を借入で調達すると、その金額だけ現預金が手元に残ります。このとき活用したいのが短期継続融資です。

短期継続融資とは、当座貸越や、手形貸付を期日ごとに書き換えて更新する形の融資で、運転資金に対応する借入として使われます。毎月の約定返済がなく、期日に更新して借り続けることができるため、返済で預金が減っていかないのが特徴です。運転資金は事業を続ける限り常に必要となる資金なので、毎月返済する長期借入よりも、借りたままにできる短期継続融資のほうが資金の性質に合っています。

ただし、実質的に返済を求めない融資という性格から、銀行は一定以上の格付の会社にしか短期継続融資に応じません。短期継続融資を利用するには、決算内容を改善して格付を上げておく必要があります。

運転資金の考え方と計算方法については「運転資金とは?種類・計算方法・目安を公認会計士・税理士が解説」を合わせてご参照ください。

3-3 借入を一本化して毎月の返済額を減らす

複数の長期借入を抱えている会社は、毎月の返済額の合計が大きくなり、預金が減るペースが速くなります。この場合、複数の借入を1本の長期借入に借り換えて、返済期間を取り直すことで、毎月の返済額を減らすことができます。

たとえば、残高の合計が3,000万円で毎月の返済が計80万円になっている借入を、返済期間10年の1本にまとめ直せば、毎月の返済は25万円まで下がります。月々55万円の資金流出が減る分、預金が手元に残りやすくなります。

なお、これは新規融資による通常の借換えであり、既存借入の返済条件の緩和(リスケジュール)とは別物です。リスケと違って不良債権として扱われないため、その後の新規融資にも影響しません。返済負担が重いと感じている会社は、リスケを検討する前に、まず借換えによる一本化を銀行に相談してみましょう。

3-4 売掛金・在庫・支払条件を見直す

売掛金と在庫は、入金や販売までの間、会社が現金を立て替えている状態です。この立て替えを小さくすることができれば、その分の現金が手元に戻ってきます。

  • 売掛金の回収サイトを短くする
    新規取引や契約更新のタイミングで、入金までの期間の短縮を交渉する
    長期間回収できていない売掛金は、放置せず督促・回収を進める
  • 在庫を圧縮する
    売れ残った在庫はセールや処分で現金化する
    仕入の量を需要に合わせて絞り、過剰な在庫を持たない
  • 支払サイトを見直す
    仕入先への支払いまでの期間を、売掛金の回収サイトより極端に短くしない
    ただし、支払サイトの延長交渉は仕入先との関係に影響するため注意して行う

これらの見直しは、現預金を増やすと同時に、所要運転資金の圧縮を通じて債務償還年数の改善にもつながります。

3-5 資金繰り表で先々を把握し、早めに調達する

手元流動性比率は、決算書や試算表のある一時点の残高で計算する指標です。今の比率が2ヶ月あっても、来月に納税・賞与・設備代金の支払いが重なれば、預金は一気に減ります。資金繰りを管理するには、一時点の比率に加えて、この先の資金の動きを把握する必要があります。

そこで使うのが資金繰り表です。最低でも3ヶ月先までの入出金を月ごとに並べ、預金残高が月商2ヶ月分を下回る月がないかを確認します。下回る見込みが出たら、その時点で銀行に融資の相談を始めましょう。預金が薄くなってから申し込むと、銀行は返済能力を慎重に見るようになり、審査に時間がかかったり条件が不利になったりします。

資金繰り表の作り方は「資金繰り表の作り方を公認会計士・税理士が解説|基本構成から運用のポイントまで」で詳しく解説しています。

4. Q&A

Q1. 無借金で現預金1ヶ月分の会社と、借入をして現預金2ヶ月分の会社では、どちらが良い状態ですか?

A. 借入をしてでも現預金2ヶ月分を確保している会社のほうが、倒産しにくい状態です。

会社が倒産するのは借入があるときではなく、現預金が尽きたときです。無借金でも預金が1ヶ月分しかない会社は、大口の入金遅れひとつで支払いに行き詰まるリスクを抱えています。借入で生じる支払利息は、資金切れを防ぐためのコストと考えましょう。年利2%で1,000万円を借りても、利息は年20万円です。この負担で倒産リスクを大きく下げることができるなら、十分に合理的な支出です。

また、平時から借入と返済の実績を作っておくと、銀行との取引関係ができ、いざ大きな資金が必要になったときにも調達しやすくなります。

Q2. 定期預金や保険の積立金は、現預金に含めて計算してよいですか?

A. 定期預金は含めて問題ありませんが、保険の積立金は含めないでください。

定期預金は、中途解約すれば数日で普通預金に戻すことができるため、手元流動性に含めます。ただし、借入の担保としている定期預金は、自由に引き出すことができないため除いて計算します。

一方、生命保険の積立(保険積立金)や経営セーフティ共済の掛金は、解約から入金まで時間がかかるうえ、解約のタイミングによっては元本割れや解約益への課税が生じます。すぐに支払いに充てることができる資金ではないため、手元流動性からは除きましょう。

Q3. 創業したばかりで現預金が月商2ヶ月分もありません。どうすればよいですか?

A. 創業融資を使って、開業時点から現預金を厚く持っておくことをおすすめします。

創業期は、売上が計画どおりに立ち上がるとは限らないうえ、利益の蓄積で預金を増やすには時間がかかります。日本政策金融公庫の創業融資は、実績のない創業期でも事業計画の内容で審査を受けることができる制度なので、開業資金に加えて運転資金分まで借りておくと、手元流動性を確保した状態で事業を始めることができます。あとから資金が足りなくなって追加融資を申し込むより、審査も条件も有利になりやすいです。

創業融資については「創業融資とは?日本政策金融公庫の制度内容・申込みの流れ・審査のポイントを公認会計士・税理士が解説」で詳しく解説しています。

5. まとめ

手元流動性比率について、計算方法・目安・改善方法を解説しました。
ポイントは次のとおりです。

  • 手元流動性比率は会社の短期的な支払能力を示す指標
    「現預金 ÷ 月商」で計算する
  • 手元流動性比率の目標は2ヶ月以上
    入金サイトの長い業種はより厚めに、現金商売の業種でも2ヶ月を下回らないようにする
  • 手元流動性比率を改善する方法は、①利益の蓄積 ②短期継続融資の活用 ③借入の一本化 ④売掛金・在庫・支払条件の見直し ⑤資金繰り表による早めの調達

当事務所では、記帳代行や税務申告だけでなく、毎月の数字をもとにした経営改善・資金繰りのアドバイスまで行っています。初回無料相談も承っておりますので、税金や会計についてはもちろん、資金調達・資金繰りに関しても、お気軽にお問い合わせください。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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Relyne会計事務所 代表 永野隆丞

この記事を書いた人

永野 隆丞(公認会計士・税理士)

日本公認会計士協会 東京会 46468号/東京税理士会 157067号

Relyne(リライン)会計事務所 代表。
有限責任監査法人トーマツ、ミネベアミツミ株式会社での監査・経理実務を経て、東京都千代田区で開業しました。全国的にも数少ない20代の公認会計士・税理士で、クラウド会計freeeを活用した創業期の会社のサポートを強みとしています。ブログ記事は顧問先様に実際に説明するときにも活用しており、会計や税金に初めて触れる方でも分かりやすい内容を心がけています。趣味はサッカー観戦・野球・将棋です。

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