個人事業主の節税対策を公認会計士・税理士が解説|優先順位と注意点
Relyne(リライン)会計事務所の永野です。
個人事業主は、経費と控除を漏れなく申告し、各種制度を活用することで節税できます。
ただし、節税対策の中には、支出が増えて手元のお金が減るものや、税金を納める時期が後ろにずれるだけのものもあります。
本記事では、個人事業主の税金と計算方法、節税対策、対策の優先順位、注意点を公認会計士・税理士が解説します。
目次
1. 個人事業主が支払う税金・計算方法
1-1 個人事業主が支払う税金
| 税金 | 課税される金額 | 税率 | 納付時期 |
|---|---|---|---|
| 所得税 |
課税所得 (事業所得-所得控除) |
5%〜45% + 所得税額の2.1% (復興特別所得税) |
翌年3月15日まで |
| 住民税 | 課税所得 (所得控除が一部異なる) |
10% + 均等割など年5,000円 (自治体により異なる) |
翌年6月から4回 |
| 個人事業税 | 事業所得 (青色申告特別控除前) - 事業主控除290万円 |
3%〜5% (業種により異なる) |
翌年8月と11月 |
| 消費税 | 課税売上高 | 10% (軽減税率8%) |
翌年3月31日まで |
個人事業税は、物品販売業、飲食店業、製造業、理容業・美容業、デザイン業など法律で定められた70の業種にかかる税金です。事業主控除があるため、青色申告特別控除を引く前の事業所得が290万円以下であればかかりません。
消費税を納めるのは課税事業者だけです。2年前の課税売上高が1,000万円以下で、インボイス発行事業者の登録をしていない個人事業主は、免税事業者となります。
(前年の1月から6月までの課税売上高と給与の支払額がどちらも1,000万円を超える場合を除く)
このほか、税金ではありませんが、国民健康保険料も前年の所得をもとに計算されます。
参考:国税庁|No.2260 所得税の税率
参考:東京都主税局|個人事業税
参考:国税庁|No.6501 納税義務の免除
1-2 所得税の計算方法
所得税は、次の順番で計算します。
② 課税所得 = 事業所得 − 所得控除
③ 所得税額 = 課税所得 × 税率 − 速算表の控除額 − 税額控除
【計算例】令和8年分の所得税
- 売上:1,000万円
- 必要経費:500万円
- 青色申告特別控除:65万円
- 所得控除:184万円(社会保険料控除80万円、基礎控除104万円)
- 税額控除なし
| 金額 | 計算 | |
|---|---|---|
| ①事業所得 | 435万円 | 売上1,000万円 − 必要経費500万円 − 青色65万円 |
| 所得控除 | 184万円 | 社会保険料控除80万円 + 基礎控除104万円 |
| ②課税所得 | 251万円 | 事業所得435万円 − 所得控除184万円 |
| ③所得税 | 153,500円 | 課税所得251万円 × 10% − 97,500円(速算表) |
| 復興特別所得税 | 3,223円 | 所得税153,500円 × 2.1% |
| 納税額 | 156,700円 | 所得税+復興特別所得税(100円未満切捨て) |
節税対策は、計算式のどこに影響するかで次の3つに分けられます。
- 経費:必要経費を増やして、①事業所得を減らす
- 控除:青色申告控除で①事業所得、所得控除で②課税所得、税額控除で③所得税額を減らす
- その他:消費税の計算方法の選択、赤字の繰越し、法人化など

1-3 経費・控除が増えたときに減る税金
所得税は、課税所得が多いほど税率が高くなります。
住民税の10%と合わせた税率と、必要経費や控除が10万円増えたときの節税額は次のとおりです。
| 課税所得 | 所得税の税率 | 所得税+住民税 | 節税額 |
|---|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 15% | 1万5,000円 |
| 195万円以上330万円未満 | 10% | 20% | 2万円 |
| 330万円以上695万円未満 | 20% | 30% | 3万円 |
| 695万円以上900万円未満 | 23% | 33% | 3万3,000円 |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% | 43% | 4万3,000円 |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 50% | 5万円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 55% | 5万5,000円 |
※復興特別所得税は含めていません。
必要経費が増えた場合は、上の金額に加えて、国民健康保険料・個人事業税も減ります。
所得控除が増えた場合は、個人事業税・国民健康保険料は変わりません。
2. 節税対策(経費編)
2-1 家事按分
自宅を事務所として使っている場合の家賃や電気代のように、生活と事業の両方に関係する支出を家事関連費といいます。家事関連費は、事業に使った部分を区分できる場合に、その部分の金額を必要経費にできます。この区分を家事按分といいます。
主な支出と区分基準の例は次のとおりです。
| 支出 | 区分基準の例 |
|---|---|
| 自宅の家賃 | 仕事に使っている部屋の床面積の割合 |
| 電気代 | 仕事に使っている部屋の床面積の割合 仕事をしている時間の割合 |
| インターネット・携帯電話の料金 | 仕事で使っている時間・日数の割合 |
| 車の費用(ガソリン代、保険料、自動車税、車検代、減価償却費) | 仕事での走行距離の割合 |
家賃が月12万円、床面積50㎡の自宅のうち10㎡を仕事部屋にしている場合、事業に使った割合は20%で、年間28万8,000円(12万円×20%×12か月)が必要経費になります。
税務調査では、按分割合をどのように計算したかを確認されます。
間取り図や走行距離の記録など計算に使った資料を保存しておきましょう。
なお、持ち家の場合は、建物の減価償却費、固定資産税、住宅ローンの利息、火災保険料に事業割合を掛けた金額が必要経費になります。住宅ローンの元本返済額は必要経費になりません。
また、住宅ローン控除を受けている人は、事業に使った割合が10%を超えると、住宅ローン控除の金額が居住用の割合の分だけになります。居住用の部分が床面積の2分の1を下回ると、住宅ローン控除を受けられません。
2-2 青色事業専従者給与
生計を一にする家族に支払う給与は、必要経費になりません。
ただし、青色申告をしている個人事業主が税務署に届出をした場合は、事業を手伝っている家族(青色事業専従者)への給与を必要経費にできます。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 生計を一にする配偶者や親族で、その年の12月31日時点で15歳以上の人 |
| 仕事の程度 | 1年のうち6か月を超える期間、その事業に専ら従事している (年の途中で開業した場合などは、従事できる期間の2分の1を超える期間) (ほかに勤め先がある人や学生は、事業に専ら従事することの妨げにならない場合を除き、対象外) |
| 届出 | 「青色事業専従者給与に関する届出書」をその年の3月15日までに提出する (1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者となった家族がいる場合は、その日から2か月以内) |
| 金額 | 届出書に記載した金額の範囲内で、仕事内容に見合った金額を支払う |
専従者給与を支払った家族は、給与の金額にかかわらず、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の対象から外れます。
配偶者に月8万円(年96万円)の専従者給与を支払った場合、個人事業主の所得は96万円減ります。配偶者控除(38万円)は使えなくなるため、課税所得が減るのは差額の58万円です。
配偶者の側は、給与収入96万円から給与所得控除を引いた金額が基礎控除より少ないため、所得税はかかりません。
専従者給与は給与なので、所得税の源泉徴収の対象になります。
白色申告の場合は、実際に支払った給与ではなく、配偶者は86万円、そのほかの家族は1人50万円を上限とする事業専従者控除を差し引きます。
(控除前の事業所得を「専従者の数+1」で割った金額の方が少ない場合は、その金額)
参考:国税庁|No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
2-3 開業費の償却
開業費は、開業日より前に、開業の準備のために支出した費用です。
打ち合わせの交通費、ホームページの制作費、チラシや名刺の作成費、開業のために受けたセミナーの受講料などが該当します。
開業費は、必要経費ではなく繰延資産として資産計上し、開業した年以後の好きな年に、好きな金額を必要経費にできます(所得税法施行令第137条)。
開業した年が赤字であれば必要経費にせず、利益が出た年に全額を必要経費にできます。
開業準備のための支出と分かるよう、領収書に日付と内容を控えて保存しておきましょう。
なお、10万円以上のパソコンや備品、事務所の敷金、商品の仕入代金は開業費に含めません。
備品は減価償却資産、敷金は資産、仕入代金は売上原価として処理します。
2-4 貸倒引当金
青色申告をしている個人事業主は、年末に残っている売掛金や貸付金の合計額の5.5%(金融業は3.3%)までの金額を、貸倒引当金として必要経費にできます。
年末の売掛金が200万円であれば、11万円が必要経費になります。
貸倒引当金は、翌年に全額を収入に戻したうえで、翌年末の売掛金をもとに改めて計算します。
そのため、税金が減るのは最初に計上した年と、売掛金が前年より増えた年です。
2-5 少額減価償却資産の特例
10万円以上のパソコンや備品は、買った年に全額を必要経費にできず、耐用年数に応じて数年に分けて必要経費にします。これを減価償却といいます。
ただし、青色申告であれば取得価額40万円未満の資産を使い始めた年に全額必要経費にできます。
(年間合計300万円まで)
40万円未満の基準は、令和8年4月1日以後に取得した資産に適用されます。
令和8年3月31日までに取得した資産は30万円未満です。
12月に36万円のパソコン(耐用年数4年)を買った場合の、その年の必要経費は次のとおりです。
- 通常の減価償却:7,500円(36万円 × 定額法の償却率0.250 × 1か月/12か月)
- 少額減価償却資産の特例:36万円
ただし、通常の減価償却でも、残りの金額は翌年以降の必要経費になります。
特例で変わるのは必要経費にする時期であり、必要経費の合計は変わりません。
また、必要経費にできるのは使い始めた年です。
12月に注文しても、届いて使い始めたのが翌年であれば、翌年の必要経費になります。
さらに、これとは別に一括償却資産という制度もあります。
10万円以上20万円未満の資産を3年間で3分の1ずつ必要経費にできるものです。
こちらは白色申告でも活用できます。
少額減価償却資産の特例・一括償却資産については、それぞれ以下の記事で解説しています。
「少額減価償却資産の特例とは?40万円未満への引上げ・取得価額ごとの処理・適用要件・申告方法を税理士が解説」
「一括償却資産とは?メリット・デメリット・少額減価償却資産との違いを税理士が解説」
2-6 短期前払費用の特例
家賃や保険料、サーバー利用料などを前払いした場合、翌年分は翌年の必要経費になります。
ただし、支払った日から1年以内にサービスの提供を受ける前払費用を、毎年継続して支払った年の必要経費にしている場合は、支払った年の必要経費にすることが認められています。
(所得税基本通達37-30の2)
月払いを年払いの契約に変更すると、変更した年は、その年の月払い分と翌年1年分の年払い分の両方が必要経費になります。しかし、翌年以降の必要経費は毎年1年分で、月払いのときと変わらないため、税金が減るのは年払いに変更した年だけです。
参考:国税庁|所得税基本通達〔その他の共通費用〕(37-30の2 短期の前払費用)
短期前払費用については「短期前払費用の特例とは?要件・対象となる費用・会計処理・税務調査で否認されるケースを税理士が解説」をご参照ください。
2-7 倒産防止共済(経営セーフティ共済)
倒産防止共済は、取引先が倒産して売掛金などを回収できなくなったときに、掛金総額の10倍(上限8,000万円)まで無担保・無保証人で借入れができる中小機構の共済制度です。
1年以上事業を続けている個人事業主が加入できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 掛金 | 月5,000円〜20万円(総額800万円まで) |
| 掛金の扱い | 全額が事業所得の必要経費 |
| 解約時 | 12か月以上の納付で掛金の80%以上、40か月以上で100%が戻る |
| 解約手当金の扱い | 全額が事業所得の収入 |
| 申告 | 確定申告書に「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」を添付する |
掛金を支払った年は税金が減りますが、解約した年に戻ってきた金額に税金がかかります。
また、解約後に再び加入した場合、解約の日から2年間に支払う掛金は必要経費になりません。
倒産防止共済については「倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは?メリット・デメリット・注意点を税理士が解説」をご参照ください。
3. 節税対策(控除編)
3-1 青色申告特別控除
青色申告特別控除は、青色申告をしている人が、事業所得から最大65万円を差し引ける制度です。
令和8年分の控除額と要件は次のとおりです。
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 65万円 | ①複式簿記で記帳している ②貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付している ③確定申告の期限までに申告している ④e-Taxで申告している(または優良な電子帳簿で保存している) |
| 55万円 | ①〜③を満たし、確定申告書を書面で提出している |
| 10万円 | 上記以外の青色申告者 |
令和9年分からは、控除額と要件が次のとおり変わります。
| 控除額 | 要件(令和9年分以後) |
|---|---|
| 75万円 | 65万円の要件を満たし、優良な電子帳簿で保存している、または請求書などの電子データを帳簿と自動で連携する一定のシステムで保存している (確定申告の期限までに届出書の提出が必要) |
| 65万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して、期限までにe-Taxで申告している |
| 10万円 | 上記以外の青色申告者(簡易な方法で記帳している人のうち、2年前の事業の収入が1,000万円を超える人は控除なし) |
書面で提出した場合の55万円の控除はなくなり、10万円になります。
青色申告をするには、「所得税の青色申告承認申請書」を青色申告を始める年の3月15日までに税務署に提出します。1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内です。
参考:国税庁|No.2072 青色申告特別控除
参考:国税庁|75万円の青色申告特別控除を受けるためには・・・
3-2 小規模企業共済
小規模企業共済は、廃業したときなどに共済金を受け取れる中小機構の共済制度です。
掛金の全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 加入できる人 | 常時使用する従業員が20人以下の個人事業主 (卸売業・小売業、宿泊業・娯楽業を除くサービス業は5人以下) 会社などに雇用されている人は加入できない |
| 掛金 | 月1,000円〜7万円(500円単位) 加入後に増額・減額できる |
| 控除額 | その年に支払った掛金の全額(最大で年84万円) |
| 受け取るとき | 一括受取は退職所得、分割受取は公的年金等の雑所得 |
| 自分都合で解約したとき | 掛金を納めた期間が12か月未満の場合は戻らない 20年未満の場合は、戻る金額が掛金の合計額を下回る |
共済金を一括で受け取るときは退職所得になります。退職所得は、掛金を納めた年数に応じた退職所得控除(20年で800万円)を引いた残りの2分の1に税金がかかるため、掛金を支払った年に減った税金より、受け取るときの税金の方が少なくなります。
また、共済金の受け取りは廃業などの時ですが、それまでの間も、支払った掛金の範囲内で事業資金の貸付けを受けられます。
参考:国税庁|No.1135 小規模企業共済等掛金控除
参考:中小機構|小規模企業共済 加入資格
小規模企業共済については「【シミュレーション付】小規模企業共済のメリット・デメリット・節税効果を税理士が解説」をご参照ください。
3-3 iDeCo・国民年金基金
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金を自分で選んだ投資信託や定期預金などで運用し、60歳以降に受け取る年金制度です。掛金の全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)になります。
個人事業主(国民年金の第1号被保険者)の掛金の上限は月6万8,000円で、2026年12月分(2027年1月の引落し分)から月7万5,000円に上がります。
iDeCoの掛金は、60歳になるまで引き出すことができません。
運用の結果によっては、受け取る金額が掛金の合計額を下回ります。
国民年金基金は、国民年金に上乗せする年金制度で、掛金の全額が社会保険料控除になります。
加入時に決まった金額の年金を一生涯受け取れますが、自分都合で脱退して掛金を受け取ることはできません。掛金の上限はiDeCoと合わせた金額で判定します。
参考:iDeCo公式サイト|iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等
参考:厚生労働省|2025年の制度改正
3-4 社会保険料控除
国民健康保険料と国民年金保険料は、その年に支払った全額が所得控除になります。
生計を一にする家族の分を支払った場合は、支払った人の所得控除になります。
20歳以上の子の国民年金保険料を親が支払っている場合は、親の確定申告で控除します。
国民年金保険料を2年分前納した場合は、支払った年に全額を控除する方法と、各年の保険料に当たる金額をそれぞれの年に控除する方法のどちらかを選ぶことができます。所得が多い年に前納して全額をその年に控除すると、税率が高い分、減る税金も多くなります。
国民年金保険料と国民年金基金の掛金は、控除証明書に記載された金額を申告します。
参考:国税庁|No.1130 社会保険料控除
参考:国税庁|2年前納された国民年金保険料の社会保険料控除について
3-5 ふるさと納税
ふるさと納税は、自治体に寄附をすると、寄附額から2,000円を引いた金額が所得税と住民税から差し引かれる制度です。差し引かれる税金は寄附した金額より2,000円少ないため、税金と寄附を合わせた支払額は減りません。2,000円の負担で返礼品を受け取れるという制度になります。
全額が差し引かれる寄附額には上限があり、次の計算式で求めます。
住民税の所得割額が50万円、所得税の税率が20%の人の上限額は、約14万6,000円です。
その年の所得は12月31日まで確定しないため、上限額は見込みの所得で計算しましょう。
上限額を超えて寄附した金額は、自己負担になります。
なお、確定申告をする人はワンストップ特例を使えません。
そのため、確定申告書に寄附金控除を記載する必要があります。
3-6 その他の所得控除
次の所得控除は、確定申告書に記載しなければ適用されません。
| 所得控除 | 内容 |
|---|---|
| 医療費控除 | 本人と生計を一にする家族の医療費の合計から、保険金などで補てんされた金額と10万円を引いた金額(最高200万円) |
| 生命保険料控除 | 生命保険・介護医療保険・個人年金保険の保険料に応じた金額 (合計で最高12万円) |
| 配偶者控除 | 所得62万円以下の配偶者がいる場合に38万円 (本人の所得が900万円を超えると減り、1,000万円を超えると受けられない。青色事業専従者は対象外) |
| 扶養控除 | 所得62万円以下で16歳以上の親族がいる場合に、1人38万円〜63万円 (青色事業専従者は対象外) |
※配偶者と親族の所得62万円以下は、令和8年分の基準です。
基礎控除は、申告する人の所得に応じて自動的に決まります。令和8年分・令和9年分は、所得(事業所得などの合計)が489万円以下の人が104万円、489万円を超え655万円以下の人が67万円、655万円を超え2,350万円以下の人が62万円です。
参考:国税庁|No.1199 基礎控除
参考:国税庁|No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
参考:国税庁|No.1191 配偶者控除
3-7 税額控除
税額控除は、所得ではなく、計算した所得税額から直接差し引く控除です。
所得控除で減る税金は「控除額×税率」ですが、税額控除は控除額と同じ金額の税金が減ります。
代表的なものは住宅ローン控除で、住宅ローンで自宅を取得した場合に、年末のローン残高の0.7%を最長13年間、所得税から差し引くことができます。
この他に、従業員の賃上げをした場合や機械等の設備を取得した場合の税額控除などがあります。
参考:国税庁|No.1200 税額控除
参考:国税庁|No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)
4. 節税対策(その他)
4-1 消費税の計算方法の選択
消費税の課税事業者は、消費税の計算方法を選べます。
| 計算方法 | 納める消費税 | 使える人 |
|---|---|---|
| 一般課税 | 受け取った消費税 − 支払った消費税 | 全ての課税事業者 |
| 簡易課税 | 受け取った消費税 × (100% − みなし仕入率) みなし仕入率は業種ごとに40%〜90% |
2年前の課税売上高5,000万円以下で、事前に届出書を提出した人 |
| 2割特例 | 受け取った消費税 × 20% | インボイス発行事業者の登録をしたことで課税事業者になった人 (2年前の課税売上高1,000万円以下) |
| 3割特例 | 受け取った消費税 × 30% |
なお、2割特例を使えるのは令和8年分の申告までで、令和9・10年分の申告は3割特例となります。
【計算例】納める消費税
- 業種:デザイナー(みなし仕入率50%)
- 売上:880万円(うち消費税80万円)
- 消費税がかかる経費:220万円(うち消費税20万円)
| 計算方法 | 納める消費税 | 計算 |
|---|---|---|
| 一般課税 | 60万円 | 受け取った消費税80万円 − 支払った消費税20万円 |
| 簡易課税 | 40万円 | 受け取った消費税80万円 × (100% − みなし仕入率50%) |
| 2割特例 | 16万円 | 受け取った消費税80万円 × 20% |
| 3割特例 | 24万円 | 受け取った消費税80万円 × 30% |
簡易課税を適用するためには、前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。2割特例・3割特例を使った年の翌年に簡易課税へ変更する場合は、変更する年分の申告期限までに提出すれば、その年分から簡易課税を適用できます。
なお、簡易課税と2割特例・3割特例では、支払った消費税の方が多くても還付は受けられません。
また、簡易課税は、選択すると2年間は一般課税に戻せません。
内装工事や機械購入など大きな支出がある場合は、消費税がどうなるかを事前に計算しましょう。
参考:国税庁|インボイス経過措置の見直し等(令和8年度税制改正特集)
参考:国税庁|No.6505 簡易課税制度
消費税・簡易課税・インボイス制度については、それぞれ以下の記事で解説しています。
「【図解】消費税の仕組みを税理士が徹底解説|納税義務の判定・計算方法からインボイスまで」
「簡易課税制度とは?事業区分・計算方法・原則課税との比較を税理士が解説」
「インボイス制度とは?仕組み・登録の判断・売り手と買い手それぞれの対応を税理士が解説」
4-2 赤字の繰越し・繰戻し
青色申告をしている年に事業所得が赤字になり、ほかの所得と相殺しても赤字が残った場合、その赤字(純損失)を翌年以後3年間繰り越して、黒字の年の所得から差し引くことができます。
前年も青色申告をしている場合は、繰り越す代わりに、赤字を前年の所得から差し引いて、前年に納めた所得税の還付を受けることもできます(繰戻し)。
なお、白色申告の赤字は、災害による損失など一部を除いて繰り越せません。
4-3 会社設立
個人事業主の所得税の税率は、課税所得が増えるほど高くなります。695万円以上の部分は23%、900万円以上の部分は33%で、最も高い税率は45%(4,000万円以上の部分)です。
一方、資本金1億円以下の会社の法人税の税率は、所得800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%です。
税率だけで比較すると、課税所得800万円を超えるあたりが法人化を検討する目安になります。
さらに、事業の利益を会社の所得と自分への役員報酬に分けることができ、役員報酬には給与所得控除も適用されます。
一方、会社は社長1人でも健康保険と厚生年金保険に加入する義務があり、赤字でも法人住民税の均等割(年7万円)がかかります。設立費用と、決算・申告を税理士に依頼する費用も必要です。
法人化のタイミングについては「個人事業主が法人化するタイミングは?節税効果と判断基準を税理士が解説」で詳しく解説しています。
5. 優先して活用したい節税対策
5-1 優先順位の考え方
節税対策の優先順位は、次の2つの基準で決まります。
- 追加の支出があるか
追加の支出があるものは、減る税金より支出の方が多く、手元のお金は減ってしまいます。 - 税金が減るのか、課税の繰り延べか
課税の繰り延べとは、税金を納める時期が後ろにずれるだけのことをいいます。
ある年の税金が減っても、後の年でその分増えるため、納税額の合計は変わりません。
これまでに挙げた対策を2つの基準に当てはめると、次のとおりです。
| 対策 | 追加の支出 | 節税効果 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | なし | 毎年減る |
| 家事按分 | なし (すでに支払っている) |
毎年減る |
| 所得控除 (例:社会保険料控除) |
なし (すでに支払っている) |
毎年減る |
| 税額控除 (例:住宅ローン控除) |
なし (既存の住宅ローン) |
要件を満たす年に減る |
| 消費税の計算方法の選択 | なし | 毎年減る |
| 青色事業専従者給与 | 家族への給与 (世帯のお金は減らない) |
毎年減る |
| 開業費の償却 | なし (開業前に支払っている) |
必要経費にした年に減る |
| 貸倒引当金 | なし | 課税の繰り延べ |
| 赤字の繰越し・繰戻し | なし | 赤字の年の翌年以後の税金が減る (繰戻しは前年) |
| 小規模企業共済 | 掛金 (廃業時などに受け取る) |
掛けた年に減る 受取時の課税は少ない |
| iDeCo | 掛金 (60歳以降に受け取る) |
掛けた年に減る 受取時の課税は少ない |
| 少額減価償却資産の特例 | 資産の購入代金 | 課税の繰り延べ |
| 短期前払費用の特例 | 1年分の前払い | 課税の繰り延べ |
| 倒産防止共済 | 掛金 (解約時に受け取る) |
課税の繰り延べ |
| ふるさと納税 | 寄附金 | 税金と寄附の合計は減らない |
| 法人化 | 設立費用、毎年の維持費用 | 課税所得800万円超で毎年減る |
5-2 最初に行うべき対策:支出を増やさずに税金が減るもの
最初に行うべきは、追加の支出がなく、税金が減る対策です。
青色申告特別控除を満額受ける
白色申告の人と、青色申告で10万円の控除を受けている人は、複式簿記で記帳しe-Taxで申告して、65万円の控除を受けましょう。
令和9年分からは、優良な電子帳簿の保存等要件を満たし届出書を提出すると75万円になります。
必要経費と所得控除の計上漏れをなくす
自宅で仕事をしているのに家賃や電気代を必要経費にしていない人は、家事按分で事業に使った部分を必要経費にしましょう。
事業用ではない個人のクレジットカードや現金で支払った経費、家族の分を支払った国民年金保険料も、計上漏れが多い項目です。
消費税の計算方法を比較する
消費税の課税事業者は、一般課税、簡易課税、2割特例・3割特例のうち、納める消費税が最も少ない方法を選びましょう。簡易課税に変更する場合は届出書の提出が必要なため、提出期限までに翌年の計算方法を決めましょう。
家族が事業を手伝っている場合は青色事業専従者給与を支払う
配偶者などが実際に事業の仕事をしている場合は、届出書を提出し専従者給与を支払いましょう。
給与は家族の収入になるため、世帯で見るとお金は出ていきません。
5-3 手元資金に余裕がある場合:小規模企業共済
手元資金に余裕がある場合は、小規模企業共済に加入しましょう。
理由は次の3つです。
- 掛金の全額が所得控除になり、掛けた年の所得税と住民税が減る
- 掛金は掛け捨てではなく、廃業したときなどに共済金として受け取れる
- 共済金を一括で受け取ると退職所得になるため、受取時の課税が少ない
iDeCoも掛金の全額が所得控除になりますが、60歳になるまで引き出すことができず、貸付けの制度もありません。
小規模企業共済は、納めた掛金の範囲内で事業資金の貸付けを受けられ、掛金の減額もできます。
個人事業主は事業の資金が急に必要になることがあるため、小規模企業共済を先に使い、さらに余裕がある場合にiDeCoを加えましょう。
なお、小規模企業共済は20年未満で自分都合で解約すると、戻る金額が掛金の合計を下回ります。
掛金は、売上が減った年でも払い続けることができる金額にしましょう。
5-4 課税所得が800万円を超える場合:法人化
ここまでの対策を行っても課税所得が800万円を超える場合は、法人化を検討しましょう。
個人事業主のままでは、必要経費と控除を増やしても、課税所得のうち695万円以上の部分には33%、900万円以上の部分には43%の税率(所得税と住民税の合計)がかかります。
法人化すると、利益を会社と役員報酬に分けて、低い税率が適用される部分を増やせます。
法人化して税金がいくら減るかは、役員報酬の金額と社会保険料の負担などによって変わるため、所得の見込みをもとに個別に計算する必要があります。
6. 節税対策の注意点
節税対策は、税法で認められた制度を使って税金を減らすことです。
次の行為は節税ではなく、事実を隠したり偽ったりして税金を免れる脱税です。
- 売上の一部を申告しない
- 支払っていない経費を計上する、領収書の金額や日付を書き換える
- 家族との食事代や旅行代など事業に関係のない支出を、事業の支出と偽って必要経費にする
税務調査で脱税が見つかると、不足した税金の納付だけでなく、重加算税と延滞税がかかります。
重加算税は、不足していた税金の35%です(申告そのものをしていなかった場合は40%)。
延滞税は、本来の期限から納付までの日数に応じてかかります。
税務署がさかのぼって税金を計算し直す期間も、通常の5年から7年に延びます。
さらに、隠した所得が500万円以上かつ再計算後の所得の50%を超える場合は、青色申告承認取消の対象になります。取り消されると青色申告特別控除や青色事業専従者給与が使えなくなります。
帳簿は7年間、領収書は5年間または7年間保存する義務があります。事業のための支出であることを説明できるように、打ち合わせの相手や目的を領収書に控えておきましょう。
参考:財務省|加算税制度の概要
参考:財務省|更正・決定の除斥期間、更正の請求期間
参考:国税庁|個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)
7. Q&A
Q1. 白色申告でもできる節税対策はありますか?
A. あります。
家事按分、開業費の償却、短期前払費用の特例、倒産防止共済、小規模企業共済、iDeCo、社会保険料控除などは、白色申告でも使えます。
次の対策は、青色申告をしている人だけが使うことができます。
- 青色申告特別控除
- 青色事業専従者給与(白色申告は事業専従者控除)
- 少額減価償却資産の特例
- 貸倒引当金
- 赤字の繰越し・繰戻し
Q2. 生命保険に加入すると節税になりますか?
A. 所得税の生命保険料控除(最高12万円)を受けられます。
ただし、保険料を必要経費にはできません。
本人や家族を被保険者とする生命保険の保険料は、事業のための支出ではないためです。
生命保険料控除が12万円の場合に減る所得税は、課税所得500万円の人で2万4,000円です。
保険料の方が減る税金より多いため、生命保険は保障が必要かどうかで加入を判断しましょう。
Q3. iDeCoや小規模企業共済の掛金は経費になりますか?
A. 必要経費ではなく、所得控除になります。
所得税と住民税が減る点は必要経費と同じですが、事業所得は減らないため、個人事業税と国民健康保険料は減りません。
事業用口座から掛金が引き落とされている場合は、必要経費ではなく、事業主貸で処理します。
Q4. 国民健康保険料を減らす方法はありますか?
A. 必要経費と青色申告特別控除を増やすと、国民健康保険料も減ります。
国民健康保険料のうち所得に応じてかかる部分は、前年の事業所得(必要経費と青色申告特別控除を引いた後の金額)などの合計から43万円を引いた金額に、保険料率を掛けて計算します。
社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、扶養控除などの所得控除は差し引かれません。
Q5. NISAや株式投資は、事業の税金の節税になりますか?
A. なりません。
NISAは、NISA口座で買った株式や投資信託の配当金と売却益に税金がかからない制度です。
事業所得にかかる所得税や住民税は減りません。
また、株式の売却で損失が出ても、事業所得からは差し引けません。
Q6. 不動産投資をすると節税になりますか?
A. 不動産所得の赤字は事業所得から差し引けますが、節税目的の不動産投資はおすすめしません。
不動産所得が赤字になるのは、家賃収入より、管理費・固定資産税・借入金の利息・火災保険料・修繕費・減価償却費などの必要経費の方が多い場合です。
赤字で減る税金はその3割程度なので、赤字を出して得をすることはありません。
また、減価償却費を必要経費にした分だけ建物の取得費が減るため、売却したときの利益が増え、売却した年に税金がかかります。
不動産投資は、家賃収入と売却価格で利益が出るかどうかで判断しましょう。
Q7. 年末が近くても間に合う節税対策はありますか?
A. 12月31日までに支払いを済ませたもの、使用開始したものは、その年分の対象になります。
- 小規模企業共済の掛金の支払い
- 国民年金保険料の前納、未納分の支払い
- 事業に必要な40万円未満の資産の購入(青色申告の場合)
- ふるさと納税
必要経費と所得控除の計上漏れの確認と、e-Taxでの申告は、年が明けてからでも間に合います。
8. まとめ
個人事業主の税金と計算方法、節税対策、対策の優先順位、注意点を解説しました。
本記事のポイントは次のとおりです。
- 個人事業主が支払う税金は、所得税・住民税・個人事業税・消費税
- 必要経費を増やす対策は、家事按分、青色事業専従者給与、開業費の償却、貸倒引当金、少額減価償却資産の特例、短期前払費用の特例、倒産防止共済
- 控除を増やす対策は、青色申告特別控除、小規模企業共済、iDeCo、社会保険料控除
- その他の対策は、消費税の計算方法の選択、赤字の繰越し・繰戻し、法人化
- 優先するのは、支出を増やさずに税金が減る対策
手元資金に余裕があれば小規模企業共済、課税所得が800万円を超える場合は法人化も検討 - 売上を隠す、架空の経費を計上するなど、事実を隠したり偽ったりする脱税はNG
当事務所では、記帳・確定申告・税務調査対応など個人事業主の方の税務をサポートしています。
法人化するかどうかのご相談も可能です。
初回相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
最後までご覧いただきありがとうございました。

この記事を書いた人
永野 隆丞(公認会計士・税理士)
日本公認会計士協会 東京会 46468号/東京税理士会 157067号
Relyne(リライン)会計事務所 代表。
有限責任監査法人トーマツ、ミネベアミツミ株式会社での監査・経理実務を経て、東京都千代田区で開業しました。クラウド会計freeeを活用した創業期の会社のサポートを強みとしています。ブログ記事は顧問先様に実際に説明するときにも活用しており、会計や税金に初めて触れる方でも分かりやすい内容を心がけています。趣味はサッカー観戦・野球・将棋です。
